投稿日:2026年06月12日 BLOG

前回のBLOGでは『リベラルアーツとコーチング』と題し、リベラルアーツ(教養)がコーチ(コーチング)にもたらす価値を3つの視点で考察してみました。
今回のBLOGでは、そこから一歩進めて、リベラルアーツのひとつの分野とも言える「歴史」に焦点を当ててみたいと思います。タイトルを「歴史」ではなく「歴史小説」としたのは、私が元来読書好きということもあるのですが、「歴史小説」の中にこそコーチングの本質が詰まっていると考えたからに他なりません。
ちなみに、ここで言う「歴史小説」とは、江戸時代の人情話を描くような、いわゆる「時代小説」とは少々趣が異なります。実在した偉人たちが、時代の大きなうねりの中で「どう悩み、どう決断したか」という史実をベースにした人間ドラマのことを指しています。
では、あらためて、歴史小説がコーチやコーチングにどのような価値をもたらすのでしょうか?
結論から言えば、優れた歴史小説を読むことは、クライアントの人生に触れるコーチにとって最高の「精神的なアップデートの機会になる」と考えられます。
歴史小説では、単なる事実の羅列を読むだけに留まらず、登場人物の会話の裏にある本音や、時代の空気感、複雑に絡み合う人間関係を読み解く必要があります。
この「行間を読み解く」という習慣は、セッションにおけるクライアントに対する観察力を劇的に高めてくれる効果があります。
相手が発する言葉だけでなく、ふとした表情の変化や声のトーンの強弱など、非言語のサインまで敏感にキャッチすることで、相手の置かれた状況をより立体的に観察できるようになるのです。
目の前の課題に囚われ、視野が狭くなっているクライアントに対して、新たな視点をもたらすことがコーチの役割と言っても良いでしょう。
歴史小説を読む習慣ができると、数年、数十年といった大きな時間の流れで物事を捉える「歴史的視座」が自然と身についてきます。
コーチ自身の視野が広がることで、「もし、(クライアントの尊敬する)歴史上の人物が今のあなたを見たら何とアドバイスするでしょうか?」といった、相手の視座を高めるような問い掛けが自然とできるようになります。
セッションの場面において、コーチが「どんな状態(あり方)でそこに存在しているか」は、スキル以上にクライアントに大きな影響を与えるものです。
一方で、歴史小説の中で描かれるのは、激動の時代に孤独や葛藤を乗り越えてきた己の「生き様」であると言えます。
こうした人間の奥深さや精神性に触れることは、コーチ自身の内面を豊かにし、人間としての深みを醸成してくれます。それが結果として、クライアントに圧倒的な安心感を与える「プレゼンス(存在感・影響力)」の強化へと繋がります。
コーチングにおいて、コーチはクライアントの可能性を信じる存在ですが、同時にコーチ自身もまた、自分の可能性を信じて成長し続ける一人の人間であると言えます。
しかし、ときとして、コーチはその「あり方」に迷うこともあります。そんなとき、歴史小説を読むと、先人たちが「お前はどう生きたいのか?」と問い掛けてくるような気がするのです。
傾聴や質問のスキルを磨くことも大切ですが、人生の後半戦を迎えた私にとっては、こうした先人たちとの対話を通じて、自分の内面を耕すことの方が重要であり、価値のある時間のように感じられるのです。
答えを急ぐ現代のビジネスパーソンに、戦略的に思考の「余白」をつくり出す。これこそが対話によるコーチングの醍醐味と言えるでしょう。
情報の波を留め、マインドフルに自分の内面に向き合う時間は、クライアントに表面的な答えを超えた納得感をもたらしてくれます。
人間だからこそ、プロコーチだからこそできる「本物の対話」が、クライアントの孤独を和らげ、次なる変容へと導いてくれるのです。
コーチングオフィス エン代表 大石 典史